2025-05-05 最前線基地としての日本
大阪万博の影響かここ2、3ヶ月、今まで会うことが少なかった人と出会うことが何度かありました。今まで興味を持ったことが無い遠い国の人や、大規模なイベントを取り回す経験を持った人、いずれも私の周りにはいなかった人々です。その中に、国の中枢から出向でイベントの運営に来ている人と話す機会があり、最近の興味関心事について聞いたところ、万博の話が出てくるかと思いきや、話題は思わぬ方向へと進みました。彼の口から出たのは「地政学的リスク」について。私の大好物の話題で、思わず前のめりになって話してしまいました。
彼が指摘したホットスポットは、ウクライナ、中東に続き、台湾海峡、南シナ海、朝鮮半島。つまり、日本の近郊に三つも戦争の火種があるという現実。これらの地域はいずれも緊張が高まり、何かの拍子に引き金が引かれる恐れのあるエリアであるとのこと。日本はそのいずれからも地理的に近く、かつアメリカを中心とする民主主義陣営から「最前線の基地」として扱われつつあるとのことでした。
沖縄では、スクランブル発進の回数が増え、今ではそれが日常風景になっています。現地の人はすでに慣れてしまい、あえて話題にもしないそうです。しかし、その「慣れ」こそが実は一種の麻痺。かつての冷戦期、あるいは第二次大戦前夜にも似た「張り詰めた緊張」が、再び戻ってきているそうです。
さて、こうした話は「国防」「外交」といった国レベルの問題に思われるかもしれませんが、これは決して他人事ではありません。私たちが営むビジネスの現場、そして将来の戦略にも深く関わってくる話です。
例えば、台湾有事が起きれば、日本の南西諸島や沖縄は当然その影響を受けます。物流ルートが遮断され、海上輸送や航空便が停止すれば、製造業や観光業、小売まで広範囲な分野で深刻な打撃が予想されます。特に半導体や電子部品の多くは台湾やその周辺で生産・流通しており、日本企業のサプライチェーンはもろに直撃を受けることでしょう。さらに、エネルギーの要である原油や天然ガスのほとんどがマラッカ海峡を通じて日本に運ばれていることを考えると、有事の際にどのような対策を講じられるのか、強い不安を覚えます。
国レベルの話と思考放棄するのではなく、常に向き合って考えるということが必要だと常々思っています。2008年のリーマンショック発生時には、私は不勉強から何が起こっているのか理解することすらできませんでした。何年もたってから世界経済と自分のビジネスがリンクしていることをやっと理解し、それ以後世界情勢から自分のビジネスの立ち位置を考える必要性を感じて研鑽しています。
世界の不安定化からくる部品供給の遅延は、生産計画の見直しを迫り、契約履行にも影響を与えるでしょう。顧客との信頼関係に傷がつけば、回復には長い時間を要します。また、金融市場の動揺は円高・円安の急激な変動を招き、輸出入業者の収益を大きく左右します。
こうした不確実性の時代に、経営者ができることは何でしょうか。複数ルートでの仕入れ体制や、在庫の見直しを含めた「供給の多重化」を検討することも、極めて重要な戦略の一つでしょう。特定の国依存から脱却しようとする動きは、まさにその延長線上にあります。それらの一歩目として、海外の動向に目を向け、社内や身の回りの人々の間でも、最低限の地政学的リテラシーを高めておくことが必要だと考えます。日頃から周囲の人々とこうした話題を交わし、アンテナを張っておくことで、変化の兆しを早期に捉えられる位置に身を置くことが重要です。日本国民全体としてそういった危機に備える考え方をスタンダードにしていきましょう。
話を戻すと、日本は今、物理的にも政治的にも「最前線」に立たされています。軍事力の保持や安全保障体制の議論は専門家に任せるとしても、私たち民間の経営者もまた、この国の命運と無縁ではいられません。むしろ、経済の血流を支えるビジネスパーソンだからこそ、政治や安全保障との接点をもっと意識する必要があります。
平時における「有事の備え」こそが、ビジネスにおける競争力を保つ鍵となります。外交や防衛の話を自分に関係ないと思わずに耳を傾け、それを自社の経営にどう生かすか。ニュースを読み解く目を鍛え、危機に強い体質をつくりましょう。地政学リスクという見えないけれど純然と存在し、大きなうねりとなって向かってくる波に流されないために、「最前線に生きる覚悟」を一人ひとりが持たなければならない時代に来ているのです。
