2025-04-14 未来への投資という視点
先日、韓国・ソウルを訪問する機会がありました。今回の主目的はデジタルアート分野の視察でしたが、それ以上に私の心を強く動かしたのは、国としての投資姿勢、インフラ、教育、都市計画といった社会全体の構造に対する考え方の違いでした。
<仁川空港で感じた「ハブを取る」という意志>
仁川空港に降りてすぐに、焦燥感が広がりました。アジアのハブ空港としての機能を完全に取られたなぁ―そんな強い意思を空港の設計や運営から感じたからです。
構内には世界各国の旅行者が行き交い関空に比べて人種の数がかなり多いです。レストランや売店では日本語や中国語を話せるスタッフが自然と対応してくれます。言語教育や多言語対応への投資が相当行き届いている印象でした。単に予算の問題ではなく、時間をかけた言語教育に向かい合った、国として「どうありたいか」のビジョンの違いを感じずにはいられません。
空港周辺には、まだまだ拡張可能な土地が整備されており、長期的視点でインフラを育てていこうという姿勢が見て取れます。海上空港という点では関西空港と似ていますが、「需要に対応する空港」だった日本と、「需要を創りに行く空港」だった韓国との違いは、1994年と2001年という建設時期のタイムラグ以上に、構想段階からの発想の違いが表れているように思いました。
<インフラと都市計画に見る違い>
ソウル市内へ向かうバスの車窓から、高速道路網の整備状況に目を見張りました。車線数の多さや幹線道路の幅広さなど、都市インフラへの投資額は日本よりも高いのではないかと感じさせる規模感でした。とはいえ渋滞は深刻で、むしろその「課題」がさらなる投資を呼び込んでいるという構図かもしれません。
都市構造そのものも、集合住宅を中心とした縦の都市開発が目立ちます。韓国では集合住宅が全体の57.7%を占めており、日本の45%前後と比べても高い比率です。生活の快適さという点では日本に分があるかもしれませんが、効率性や生産性という観点では韓国の方が割り切った選択をしている印象でした。
<デジタル都市の姿と投資マインド>
そして何より印象的だったのは、街中にあふれるデジタルコンテンツの量と質です。乗換駅の通路には巨大なLEDパネルが並び、街全体がまるでSF映画の未来都市のようです。
LEDパネルの普及、デジタルサイネージの規模感は、広告規制の違い、あるいはサムソン電子の存在によるコスト面の優位性など、さまざまな要因が絡んでいると思われますが、それを含めて「未来に向けた投資を惜しまない社会」だと感じさせられました。
<未来をつくるエネルギーの差>
今回の視察で一番強く感じたのは、韓国という国が「未来をより良くする」というビジョンに対して非常に能動的であるという点です。社会の不満や格差が原動力になっている面もあるでしょう。しかし、それを投資という形に変換していくエネルギーは、日本以上のものがあると素直に感じました。
対して日本は、すでにある程度満たされている社会であり、変革への危機感が薄れているようにも思えます。だからこそ「現状維持」が優先され、未来への投資が後回しになっているように見えるのです。
私は数年前からアジア各国を回って観察を続けてきましたが、日本の根本的な「投資に対する考え方」に、違和感を抱き続けています。社会的なインフラ、教育、言語、デジタル技術―どれを取っても、未来に向けて投資を続けなければ、より良い社会など実現しません。
<私たちが考えるべきこと>
ビジネスもまた、社会の一部です。企業経営や事業成長においても、「今」だけでなく「5年後」「10年後」に何が求められるのか、そのために今何を整備すべきか、という発想がますます重要になってきています。
今回の韓国視察を通じて、改めて「投資とは何か」「未来をつくるとはどういうことか」を深く考えさせられました。
言ってしまえば、私たち日本人は、安心・安全でそこそこ便利な“大きな老人ホーム”のような社会にどっぷりと浸かり、それが世界の標準であり当然のことだと錯覚してしまっているところがあります。しかし世界に目を向ければ、人口構造や国際競争、成長への意志の強さなど、状況はまったく異なります。
そんな中で、自国の過去の成功体験だけに甘えていては、世界では勝負になりません。
未来に向けて何を選び、どこに投資していくか。社会や組織においても、そして私たち一人ひとりにおいても、その意思決定が問われています。
私たちのビジネスも、そしてこの国の未来も、今この瞬間からの選択の積み重ねによって形づくられていくのだと信じています。
